血管構造を導入するプロセスに数時間を要するようでは、その間に酸素が枯渇するため有用な技術とは成りえない。そこで本研究では、(1) 細胞外マトリックスの構成成分であるゼラチン
(Gelatin)とヒアルロン酸 (HA)を原料として、これらを混合するのみで10秒程度で素早くゲル化するGelatin-HAハイドロゲルを作製し(図1)、(2)電気化学を用いた細胞回収法と組み合わせることで、素早く血管構造を構築することを目的とした(図2)。
具体的には、(1)のGelatin-HAハイドロゲルは、まず、それぞれの材料に官能基 (CHO-、ADH-) を導入し、Gelatin-ADHとHA-CHOを作製した。これらの溶液をダブルシリンジを用いて混合すると、-ADHと-CHO間の自発的な架橋反応により、10秒程度でゲル化することが示された。また、走査型電子顕微鏡 (SEM)による孔径の評価や物性試験機によるヤング率測定、細胞接着評価によって、 このハイドロゲルは濃度を変更するのみで容易にゲル強度や細胞接着性をコントロールできることも示された。
一方、(2)の電気化学的な細胞脱離法は、オリゴペプチドを修飾した金電極表面上に細胞を接着させたのち、オリゴペプチドと金の結合を切断してオリゴペプチドを脱離させるのに伴い、細胞も脱離させるものである。金表面上に接着した細胞の表面を上記ハイドロゲルで覆い、オリゴペプチド層を電気化学的に切断することで、細胞をハイドロゲル側へ転写できることを示した。最後に、これらの技術を用い血管構造を作製した。すなわち、金を蒸着させたシリンジ針上にペプチドを介して血管内皮細胞を接着させ、アクリルで作製したデバイスに配置した。そして、ハイドロゲルをデバイス内に導入した後、電気化学的に血管内皮細胞をゲルに転写した 。 これにより内表面が血管内皮細胞に覆われた血管様構造を素早く (10分以内) に作製可能であることが示された。
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